失神
失神(syncope)とは、「一過性の意識消失発作の結果、姿勢が保持できなくなるが、一過性のもので、自然にまた完全に意識の回復がみられること」と定義されます。しかしながら、一過性のものであっても、転倒による大怪我や、自動車運転中の失神による人身事故は社会的にも問題となっており、一度医療機関での精査が必要です。
失神の原因
1.起立性低血圧による失神
横になった(または座った)状態から立ち上がった際に、血圧の調節がうまくいかず、高度の血圧低下をきたす状態です。自律神経失調症、パーキンソン病、糖尿病に代表される自律神経障害や、脱水、下痢、出血などによる循環血漿量減少が原因となります。
2.神経調節性失神
様々な要因により、交感神経抑制による血管拡張(血圧低下)と迷走神経緊張(徐脈)が惹起され、脳血流が一過性に低下する状態で、脱水、飲酒、長時間の立位などが誘因となります。また、排便、排尿、食後など、特定の状況で失神が誘発される場合もあります(状況失神)。
3.心原性失神
1.2.と比較すると頻度は少ないのですが、心原性失神は時に致命的となります。原因として不整脈(徐脈性不整脈、上室性頻脈、心室性不整脈)、器質的心疾患(急性心筋梗塞、弁膜症、肥大型心筋症など)、その他の疾患(急性大動脈解離、肺塞栓症、肺高血圧など)が挙げられます。
広島大学病院循環器内科では心原性失神が疑われた場合、以上の疾患の検査を丁寧に行い、診断から治療まで、最良の医療をご提供します(詳細は他項をご参照ください)。
失神の検査
ヘッドアップチルト試験
主に、起立性低血圧による失神、神経調節性失神を診断するための検査です。患者さんに検査台の上で仰臥位になっていただき、検査台を他動的に起こして、約60°から70°程度の傾斜をつけます。さらに、血管拡張薬を内服(または点滴)を行い、血圧や心拍数をモニタリングしながら発作が起こるか確認をします。自律神経機能に異常がある場合は、血圧や心拍数が一過性に過度に低下し、実際に検査中に失神が誘発される場合もあります。
所要時間約1時間。
植込み型ループレコーダー
心原性失神の中でも、不整脈による失神を診断するためのものです。
不整脈の診断の難点は、発作中の心電図がなければなかなか診断に結び付かないことで、通常の12誘導心電図検査のみでの診断は困難なことが多いです。24時間記録可能なホルター心電図や、2週間程度記録可能なイベントレコーダーも用いますが、頻度の低い失神は診断に至らないことが多々あります。植込み型ループレコーダーとは小型のチップで、前胸部の皮下に植込み、約3年間、心電図の観察を行います。
広島大学病院では基本的には1泊2日の入院で行います。局所麻酔下で約20分の手術を行い、手術翌日の退院となります。