広島大学大学院 医系科学研究科 循環器内科学

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Harbor-UCLA Medical Center留学記(木阪智彦)

木阪智彦

木阪智彦(H14卒)

はじめに

運動負荷試験とその解釈の原理 第5版』呼吸・循環系の病態生理を紐解く臨床の実用書であり、斯界の研究書として欠くことのできない運動循環器病学の教科書です。2013年夏から2016年末まで著者のワッサーマン先生のもとに留学し、生理学上の応答連関を協働する歯車に見立てた解析法を中心に、医学ならびに工学的アプローチを学びました。

学んだこと

 John's Cardiovascular Research Center(左)とChronic Disease Clinical Research Center(右)
(Saint John's Cardiovascular Research Center(左)とChronic Disease Clinical Research Center(右):循環器内科医局・呼吸生理学部門・睡眠センターならびに、運動呼吸生理学ラボ・心臓CTラボ・呼吸リハビリ外来が併設される慢性疾患臨床研究センターが設けられています。)

日本の資格が通用しない世界に放り出され、施設や肩書から離れた自分がどう社会に貢献するか問われました。国際的な舞台で自信をへし折ってもらい「陋習に盲従して、自分を偽った人生を送ってはいけない」と師匠に戒められ成長できました。思えば教科書の知識をオウム返しに唱えていたのは汗顔の至りです。数年学び、目新しいことは何らわからず、何がわかってないかが分かりました。真贋と重要性をはかる物差しを得たお蔭で、わからないことを分かった風に話すことは避けられそうです。率直な所、研究留学は楽しいことばかりではありません。結果が出るまでプレッシャーの連続です。習慣の違いが生む誤解に足をすくわれ、梯子を外されもしましたがアイデアを守り淡々と前進できたのは幸運でした。

英語は実践で鍛え、論理的思考の素地は大学院で培いました。日本の医学生理学のポテンシャルは欧米に引けを取らず、高度な思考を展開できる日本語は、運動呼吸調節の複雑系を紐解く誇るべき言語だと思います。渡米前からの人脈にも助けられました。山本秀也先生が学ばれたブドフ教授の協力のもと心臓CTを用いた日米共同研究に携わり、探究心が国境を越えて実を結びました。

研修施設

私の留学先はロサンゼルスの南湾地域に位置し、UCLA 教授をふくめ常勤医300人を擁する教育病院でした。併設された研究所には1500人が勤務し心肺運動負荷検査法の確立に中心的役割を果たしたことで知られます。心不全の呼吸調節への理解を深めたかった私はCO2蓄積とcapillary PO2の臨界域を調節するH+動態をテーマにしました。ワッサーマン先生から「最後のフェローのつもりだ。メカニズムを考え論理の連続性を重視しなさい」と教わり、3年半マンツーマンで指導を受けました。学術と人格の両面で尊敬できる師匠のもと真摯な対話を土台に研究生活が送れました。ものごとを俯瞰してとらえるバックボーンを形作ってもらえたことに深く感謝します。特に生じた疑問を本質的な研究課題へ昇華する方法を教わったことは大きな収穫です。「日本に戻り取り組むべき仮説だ」といわれた心不全の運動生理モデルに辿りつき、研究ノート(贈: 小園亮次先生)に記しています。2016年に慢性疾患臨床研究センターへ移り、ポストゲノム時代を見据えた取り組みとして、試用段階のアルゴリズムを用い複雑な生理応答をどう役立てるか学びました。分子からヒトを診るシステムバイオロジーへ立ち返る潮流にふれ、呼吸・循環・筋の共役を細微に表す動的応用モデルが技術限界を突破する日も近いと信じます。2017年には、幸いにも日本企業の協力を得て特許を申請し、次の施設で師匠に倣い医工連携に貢献する機会が与えられました。恩返しとも運動生理学の枝葉を伸ばす好機とも感じます。

呼吸生理学部門の人々

(呼吸生理学部門の人々。筆者の両隣が新旧の教授: Dr. Sietsema, Dr. Wasserman, Dr. Casaburi)

おわりに

「原著にあたり、わからなければ著者に聞く気概を」研修中に教わり、留学時に大切さを実感した言葉です。私の場合、教科書の著者に会う幸運に繋がりました。経済面で福田記念医療技術振興財団・米国心臓病学会・三菱電機エンジニアリングから頂戴したサポートに感謝します。末筆ながら、海外で学びたいという希望を汲み、見守ってくださる木原康樹先生に厚く御礼申し上げます。守るべきは守り、先見性を発揮してきた広島大学循環器内科学教室の理念と先取の気風に感謝します。木原教授が展開される構想のもと益々の発展を遂げ、患者さんに恩恵がもたらされることを祈念します。

前任フェローのドイツ人循環器内科医(最右端)を囲む会

(前任フェローのドイツ人循環器内科医(最右端)を囲む会: ワッサーマン先生ご夫妻(最前列)ならびにご家族(左 3 人)が、家族同然の関係を築いてくださり、単身渡米した私にとって留学中の支えでした。)