神戸市医療センター中央市民病院研修(日高貴之)
2008 年8 月から2009 年1 月の6 ヶ月間、木原教授の御高配により神戸市医療センター中央市民病院で心エコーについて研修する機会を与えて頂きました。終日心エコーの修練に励むことができ、大変有意義な期間を過ごすことが出来ました。研修中は関係の皆様にも多大なご迷惑をおかけしました。神戸中央市民病院心エコー室の現状について、私なりに気がついた事柄を報告させて頂きます。
検査は、ほぼ全例検査技師によって施行されています。検査中、中央モニターで同時に4件の検査が確認でき、最終的に結果を心エコー担当の医師と検査を施行した技師でdouble check していました。検査は完全予約制になっており、予約枠は1件あたり1 時間が設定されており、一日の予約枠は計18 件でした。緊急性の高いもの、入院患者の依頼は予約の間に施行されており、 最終的に一日当たり25 件程度(そのうち2 件程度が経食道心エコー)の検査が施行されていました。
心エコーに携わる技師は7名で、ローテーションが組まれており、3名がその日の検査を担当していました。心エコー図学会認定の専門技師が 4 名いました( 全国で 16 名しかいません)。心エコー機は、東芝社製Aplio, Artida, Philips 社製 iE 33, ATL 社製の計4台がありました。常時3 台は稼動しており、必要があれば4 台目で検査を行っていました。一件当りの検査時間は、30 - 40 分かけていました。Tissue Doppler image による僧帽弁輪速度の計測、PV flow の計測、左房容積の計測はルーチン検査となっていました。負荷心エコーなど特殊な検査についての特別な枠は設けていませんでした。スクリーニング的に行われる検査でも40 分程度の時間を要しており、予約が数ヶ月先まで取れないといった問題も生じていました。
検査に先立ち視診聴診触診を行い、必要があれば技師自らの判断で、心音図心機図を記録していました。動画を3 心拍程度、一旦エコー機のハードディスクに取り込み、その後必要な動画のみをサーバーに転送して保存していました。以前は、検査開始から終了までのすべてをVHS のビデオテープに録画していたそうです。膨大なデータ量になってしまいますが、一断面のみの動画を保存するのではなく、連続断面として保存することが後々再評価する際に有用になってくるためとの事でした。
かの有名な中央市民病院ですので、何が行われているのか興味津々で乗り込んでみました。まず、 はじめに驚かされたのは、身体所見に対するこだわりでした。心エコーを行う技師が、聴診のみならず、心音図心機図も含めて詳細に評価していました。個人的に、聴診など身体所見は苦手で、教科書を読んでも読んだ端から忘れてしまい、日常の診療の中でもおろそかにしていました。ところが、耳で聞いて目で心音図を確認すると聴診が新鮮で、これまでとは別物のように理解が進んだような気がしてきました。ここで数ヶ月養った身体所見の知識がその後の外来診察でも驚くほど役立つことを実感しています。
また、大きな驚きであったのは弁膜症の患者の多さでした。中央市民病院の心臓血管外科は特に僧帽弁形成において全国的に有名であり、 全国から患者が集まっていました。一日の検査のうち、2-3例は僧帽弁逸脱症の患者が含まれていました。これら僧帽弁逸脱症では、後尖はもちろん前尖の広範な逸脱であってもほぼ全例において弁形成が行われるため、 外科医が詳細な術前評価を要求していました。これに応えるため、検査技師がかなり詳細に逸脱の位置、数、弁性状などについて報告していました。逆流量、率の定量は当然の如く行われていました。
私が研修中に Philips 社製の3D 経食道プローベが購入され、僧帽弁逸脱症の検討に用いられていました。これまで、3D での検討に対してあまり有用性を実感できていませんでしたが、ここで初めてその有用性を強く認識しました。また、 感染性心内膜炎後でほぼ僧帽弁の形態をとどめていない症例、左房壁が破壊されているような症例でも、自己心膜、ウシ心膜を用いた形成により治療されており、心エコーによる術前評価がここでも大きな役割を果たしていました。さらにここは経胸壁心エコーによる冠動脈血流の評価の発祥の地でもあり、数多く施行されていました。冠動脈バイパス術後の症例では冠動脈血流の評価は全例行われており、LAD, LITA, RITA,GEA の血流測定を行っていました。
心エコーは明確な目的をもって依頼されており、他科(消化器外科、整形外科など)からのとりあえずの術前心機能評価のための検査依頼はほぼ皆無でした(現在当院ではかような依頼が検査の2 割程度を占めています)。
いくつかの問題点も感じました。なにより検査予約が数ヶ月待ちというのは、心エコー検査の簡便性という優位な点を一つ失っていると思われました。また、普段の検査から技術的に高度な事が要求されており研修医、後期レジデント、新たに心エコーを学ぼうとする技師にとって敷居が高くなってしまっているとも感じました。
個人的な感想ですが、神戸中央市民病院のエコーラボは、 やはり広島大学病院のものとは大きくかけ離れたものでした。また関西圏のいくつかの病院について知る機会がありましたが、それらと比較しても太刀打ちできるものではありませんでした。古参の技師さん達の話から、いかにしてここまで築きあげられてきたかを知ることができました。吉川純一先生から続く姿勢はいまだ引き継がれており、検査技師が心エコーを通して病態生理の把握に全力を注いでおり、疑問や矛盾があれば、解決するまでエコーを取り続ける姿勢がありました。かようなトップラボでさえ努力を惜しまず進歩しようとしています。これまで出版物などからぼんやりと想像するしかなかった現在の自分たちの立ち位置、トップラボとの距離をこの度の研修を経て実感できました。技術では大きく遅れていますが、決して追いつくことが不可能でないと感じています。やる気と年齢は負けるはずがありません(エコー機の品揃えはほぼ最強になりました)。こつこつ検査室の皆で協力して努力して行こうと考えています。同門会の先生方からもぜひ御指導、御鞭撻のほど宜
しくお願いいたします。
神戸での生活は、無給研修生でしたが、木原教授より明石での当直を紹介して頂き、何とかやっていけました。3 歳の双子の子供に会いたいあまり毎週広島に帰っていたのでかなりの出費がかさんでしまいましたが、おかげで忘れられずにそれなりに思いで作りが出来ました。必然的に節約のため神戸では、ほぼ毎日餃子の王将に通い詰めほぼ全種類を制覇できました。滞在中は、東横インに泊まっていました。週末帰省するのであれば、マンスリーマンションより安上がりです。光熱費不要で、インターネット接続無料、朝食付きで掃除の必要もありません。10 回泊まれば一回分の宿泊無料券がでます。誰か今後の参考にしてください。また、神戸には意外にインド人が多いことを知りました。真珠貿易のため日本で一番インド人が多いそうで、2 つの宗派の寺院が建てられています。今度神戸にいかれる予定の方は、中華街ではなくぜひインド料理にチャレンジしてみてください。