Taipei Veterans General Hospital 留学記(末成和義)
末成和義(H11卒)
はじめに
平成23年3月末、台湾での2年間の留学生活を終え、日本に帰国いたしました。
拙文にて大変申し訳ありませんが、留学先のTaipei Veterans General Hospitalでの臨床研修・研究内容や、日々の生活などをご紹介させていただきたいと思います。
今後、留学を志される先生方に少しでもご参考になりましたら幸いです。
台湾・台北について
台湾は、広島空港から約3時間のフライトで行ける身近な外国で、九州ほどの広さがあり、台北市は260万都市で大阪市とほぼ同等です。
戦時中の日本統治時代の建物をそのまま利用した施設がまだ現存しており(台湾総統府、台湾大学医学部付属病院、台湾銀行、など多数)、最近では日系デパート(三越、そごう、高島屋、阪急百貨店)や店舗の進出も目立ち、私たちの住んでいた天母地区にも徒歩圏内にそれらのデパートがあったため身近に日本を感じられました。
ご存知だと思いますが台湾人は親日的な人が多く、同僚とも家族ぐるみで仲良くしていただき、仕事だけでなく生活面でもいろいろと手助けをしてもらいました。
留学して最初の3か月くらいは、滞在ビザを取得するための申請に翻弄されました。
点在する役所に公共交通機関を駆使してまわり、そのおかげで移動手段や現地の食事などに慣れることができました。
移動手段としては、バス路線、MRT(地下鉄)ほぼ台北市内を網羅しており、タクシーを利用することなく低価格(バス:市内で50~100円)であちこちまわることができました。
生活面では、家賃が日本並に高いのですが、物価は格段に安かったのでとても助かりました。
私たちのアパートは病院まで徒歩5分程度のところにあり、近隣に日本人学校・アメリカンスクールがあるため、日本人を含む外国人が多く住む地域であり、治安もよいので安心して生活できました。
生活面で苦労したのは、やはり言語です。
台湾は繁体字中国語のため日本語と似ており、コミュニケーションが取れない場合には漢字を書いてみると通じることが多々ありました。
台湾滞在中に観光は市内程度だけで、遠方へはほとんど行けなかったのですが、その分休日の外食を楽しみに日々仕事をしていました。週末は、台湾料理、上海料理、四川料理など、バスを駆使して市内の有名店に出向いていました。また、望郷の念に駆られて、台北市内にある広島風お好み焼き屋に食べに行くこともありました。
台湾南部で開催される学会や研究会に参加した際には、日本の新幹線技術を導入した台湾高速鉄道に乗って赴き、ちょっとした旅行気分を味わうことができました。
アブレーション手技、研究に関して
私が師事したShih-Ann Chen教授は、心房頻拍・心房細動の心臓電気生理学的検査(EPS)、高周波カテーテルアブレーション治療に関する研究を主に行っており、その一部に携わることができました。
研修先のTaipei Veterans General Hospital(台北栄民総醫院)は、National Yang Ming University(国立陽明大学)の附属病院であり、病床数約3000床の規模の国立病院です。
毎週火曜・水曜日に心房細動アブレーションを2件ずつ、月曜・木曜日に心室頻拍や心房細動を含めた上室性不整脈のEPS、アブレーション治療が数件入っており、アブレーション治療は上級医の指導のもと、卒後4、5年目以降のフェローが施術していました。
私にとって非常にラッキーだったのは、メインの術者が6月に研修を終了し地元の病院に帰ったため、7月からアブレーションをするフェローが私だけとなり、1年ほどはほぼ全例の治療に術者として入ることができました。
留学して2年目に入ると、国内のフェローや留学生が増えたので術者の機会は徐々に減ったのですが、それでも多数の症例を経験させていただいたと思います。
また、術後に症例毎の詳細なEPレポートを分担して作成する必要があったため、フェロー達と心内電位を見直して疑問点などディスカッションすることで切磋琢磨しておりました。
研究は、月曜から木曜日のカテ終了後に臨床データの収集・解析を行い、金曜日に基礎研究を行っておりました。
臨床研究のテーマは、房室結節リエントリー性頻拍の性差に関する検討、不整脈源性肺静脈と心房細動基質との関係、病的心房細動基質を同定するための新しいシグナル解析法の開発でした。
基礎研究は、Shih-Ann Chen教授の弟子にあたるYi-Jen Chen教授に指導を受け、ウサギの左房-肺静脈ジャンクションから分離した心房筋細胞を用いてパッチクランプを行い、肺静脈心房筋細胞への薬理学的評価や各イオン電流の解析などを行っておりました。
隔週の土曜日に、Yi-Jen Chen教授に実験の進行状況をプレゼンし、実験結果に関してディスカッションするのですが、動物実験やパッチクランプなど未知の世界でかなり苦労しました。
しかし、徐々に不整脈発生のメカニズムなどを基礎実験から理解できるようになり、基礎の観点から臨床不整脈を考えられるようになりました。
そのほかにも、関連施設での分子生物学的研究、光学マッピング解析、3D mapping systemを使った動物実験、心エコーやCT・MRIなどの画像解析、他大学との共同研究(シグナル解析、遺伝子解析)など、多岐にわたって不整脈研究を行っており、すべてを見学することはできませんでしたが貴重な経験をさせていただきました。
おわりに
留学当初は身体的にも精神的にも大変な時期がありましたが、日々の生活を支えてくれた妻や、現地で家族ぐるみで面倒をみていただいた友人がいたことで乗り越えることができました。
振り返りますと、本当に留学してよかったと思います。
最後になりましたが、このような貴重な留学の機会を与えて下さり、広島大学循環器内科学 木原康樹教授、中野由紀子先生、そして広島大学心臓血管外科学 末田泰二郎教授に心より感謝申し上げます。
今後は、この留学で得た経験を日々の臨床に役立てていければと思います。